仙台地方裁判所 昭和23年(行)44号 判決
原告 安海良明
被告 宮域県農地委員会
一、主 文
被告が原告の訴願に対し昭和二十三年七月二日附を以てなした裁決はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、宮城県黒川郡粕川村石原字一本木囲二十四番山林一町六反七畝十三歩は原告の所有であるが、訴外粕川村農地委員会は昭和二十三年四月十日右山林について未墾地買収計画を定め、翌十一日これを公告したので、原告は同月二十九日異議の申立をしたところ五月五日却下の決定があり、その頃その決定書の送達を受けた。そこで更に五月十四日被告に訴願したところ、七月二日附で棄却の裁決があり、その裁決は七月十四日送達された。
しかしながら本件未墾地買収計画は次の点において違法である。
第一、本件山林はその土質が悪い上に、その約二分の一は急傾斜地であつて、開墾に適しない。
第二、原告は肩書地で農業を営んでいるが、本件山林はその主たる自家用薪炭林であるから、これを買収されると農業経営上重大な支障がある。
よつて原告の訴願を棄却し、本件買収計画を維持した被告の前記の裁決の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、請求原因のうち冒頭記載の事実並びに第二の原告がその肩書地で農業を営んでいることはいずれもこれを認めるが、その他の事実は否認すると答えた。(立証省略)
三、理 由
請求原因のうち冒頭記載の事実は当事者間に争がない。
第一、原告は本件山林が開墾に適しないと主張し、その理由として先ず土質(その意味は土性であること本件口頭弁論の全趣旨によつて明らかである)の悪い点を挙げているが、鑑定人畑谷善次郎の鑑定の結果によるも開墾適地でないという原告の主張事実を肯認するに足らず、又右原告の主張事実に沿う証人桜井久男、畑谷善治郎の各証言は信用できない。却て成立に争のない甲第七号証、乙第三号証(但し甲第七号証は原本の存在も争ない)によれば、本件山林の土性は植壤土で、土性の点では第一級の開墾適地であることが認められる。
開墾に適しない第二の理由として原告は急傾斜地である点を挙げているが、検証の結果(第二回)及び前記鑑定人の鑑定の結果によるも原告の主張事実を認めるに足らず、右原告の主張事実に照応する証人桜井久男、畑谷善治郎の各証言並びに原告本人訊問の結果は信用できない。却て前記甲第七号証、乙第三号証及び検証の結果(一、二回)によれば、本件山林の北面には傾斜の点から見て開墾に適しない箇所(十六度から十八度になつている)があるにはあるが、その面積は約二反七畝歩程度で、従つて本件山林のうち約六分の一の面積にすぎず、附帯地として利用するときは本件山林の開墾上何ら支障を来たさないことが認められる。
従つて土性、傾斜の点から本件山林が開墾不適地であるという原告の主張にはいずれもその理由がない。
第二、しかしながら、原告がその肩書地で農業を営んでいることは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第六、第十二、第十三号証、証人佐藤宏の証言並びに原告本人訊問の結果によつて真正に成立したと認める甲第八号証の一、二第九号証の一ないし三、証人菊地宗一の証言によつてその成立を認めうる甲第十号証の二、証人安海正一、佐藤宏、桜井久男、菊地宗一、武藤運三郎、高橋貞の各証言及び原告本人訊問の結果並びに検証の結果(第一、二回)によれば、原告は本件山林の外に山林としては(一)、黒川郡粕川村石原字上在家に合計四町五反七畝二十六歩(但し右は外四名の者との共有である)(二)、同郡同村石原字一本木囲に合計八畝七歩(三)、同郡落合村三ケ内字北沢に二畝歩(四)、同村三ケ内字防山に二反五畝十五歩(五)、同村三ケ内字山畑に合計四畝五歩をそれぞれ所有しているが、そのうち(四)、は萱生地(五)は植林地であつて、本件山林と(一)ないし(三)が薪炭林であること、しかしながら本件山林に(一)ないし(三)の薪炭林を合せても原告方ではその自家用薪炭を自給することができず、十年のうち二年の割合で、その不足分を他から買求めていること、右自家用薪炭林のうちでも(一)の共有山林は非常に痩せているため生育が悪く、その毛上は二十年毎に各共有者が約一年半に消費する程の薪しか生産しないので、原告方では発育のよい本件山林に主として依存してきたこと((二)、(三)の山林は合計して一反七歩にすぎない)、従つて本件山林を買収されるときはその自家用薪炭の大部分の補給源を失うに至ることが認められる。右認定に反する証人高橋松寿、赤間胞吉の各証言は信用できない。
以上の事実から、本件山林が買収されることによつて原告がその自家用薪炭の大部分の供給源を失う結果その農業経営に相当の支障を来たすことが明らかである。従つて本件山林を買収することは結局不相当であつて、本件末開墾地買収計画はこの点において違法である。従つてまた右買収計画を維持して原告の訴願を棄却した被告の前記裁決も違法であつて、その取消を求める原告の本訴請求には理由がある。
よつてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条に適用して主文の通り判決する次第である。
(裁判官 松尾巖 畠沢喜一 片桐英才)